大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)483号 判決 1958年10月14日

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人双川喜文の上告理由二について。

借家法五条にいわゆる造作とは、建物に附加された物件で賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与えるものをいい、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため、特に附加した設備の如きはこれに包含されないものと解すべきである(昭和二九年三月一一日第一小法廷判決、民集八巻六七二頁参照)。けだし、もつぱら賃借人個人の利益のため附加された造作であつて、賃借人のため何ら客観的便益を供しないものについてまでその買取を賃貸人に強制する法意とは解しえないからである。ところで、原判決の確定したところによれば、被上告人が本件設備をなすに至つたのは、その設備をするのでなけば監督官から本件家屋賃借の許可を受けることができないためであるというのであつて、その設備の目的はもつぱら賃借人個人のためになされたものである。のみならず、本件家屋に整備された各種造作は、必ずしも本件家屋の如き規模の日本式家屋に適当なものとはいえない。思うに、日本人と西洋人とではその生活の様式、規模を異にし、彼に必要なもの必ずしもこれに必要なものとはいえない。原判決の認定した設備のうち瓦斯および電気のメートル器の如きは、西洋人たる被上告人の生活上必要な規模のものといえても、一般日本人の生活にとつては必要な程度を超えるものでないとは限らず、腰掛式便所設備その他についても程度の差こそあれ、同様のことがいえるものと認むべきである。それ故本件設備を借家法五条の造作と認めるためには、単にその設備が一般的に造作と認められるものであるというだけでは足りず、それが本件家屋用の設備として客観的に利便をもたらすものであるかどうかをも判定しなければならない。しかるに、原判決は、右の点について何らの配慮を示さず、本件物件が単に性質上造作に属することのみから、ただちにこれをもつて借家法五条にいわゆる造作と認めたのは、同法を誤解しひいて審理不尽に陥つたものというのほかなく破棄を免れない。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例